ARTYOURSを作るにあたって多くの人に協力していただきました。
本当にありがたい事です。

その協力者の方々の中で特に印象に残っているのが、
群馬県桐生市のネットワークアドバイザーである千明敏彦さんです。
「ちぎら」というちょっと珍しい読みの名前であったのと、
氏が持っていた「知識の面白さ」のせいだと思います。

会議は、千明さんが話す余談でよく脱線しました。
ただそれが興味深いものばかりだからタチがわるいのです。
その場にいる全員が聞き入ってしまう事がままありました。

たとえば、「春と秋には良い糸がよれる」という話。

「彼岸は良い糸ができるのよ。なんでかって、春と秋は空気中の温度と水の温度が近くなるから。
糸を洗う水が濁らないんだよね〜。」

千明さんは上州座繰り器という手で回す糸車の技術に精通していたそうです。
だからこそ知っているまさしく昔ながらの口承知識。

「口承でしか伝わってない知識だって沢山あるはずなンだよ。でもみんなわすれちまったんだよなぁ。
そういうのってまだ役に立つ事あるんだよ。
来月から、国が運営するボランティア事業の講師としてその技術をカンボジアへ伝承しに行く予定になってるんだ。
こういう知識ってのはネットにだってなかなか載ってるもんじゃないでしょう?」
と、大きな身体をゆらしながら、得意げに「がはは。」と笑っていらっしゃいました。

そんなまさしく「歩く文化財」の様な人だった千明さんが、
急にお亡くなりになったと連絡が来たのは、
サイト公開予定日の二週間前のことです。

持病をこじらせてという事だったのですが、会社にその連絡が来た時には信じられないのと、もっといろいろな話を聞きたかった。という気持ちで大変くやしい思いをしました。

サイト公開後も、そんな貴重な話で連載を書いてもらおうとおもっていた矢先の出来事だったからです。

そのとき、ふと千明さんが「一本勝負」の話をしていた時のことを思い出しました。
それは昔の女遊びの場所、いわゆる遊郭から出来た言葉らしいです。

「お香が一本燃え尽きるまでの間が、いわゆる”おたのしみ”の時間ってやつだ。
そんな風に燃え尽きるような時間を生きてみてぇよなぁ。」

千明さん…本当に縁起でもない事を言わないで欲しかったですよ。
と、私は氏からもらった煙草入れの鯛を手で擦りながら
無念な気持ちを抱きつつ黙祷するのでした。
ネットの電波が三途の川を超えてくれるのを祈るばかりです。

oasis_sk

『ARTYOURS』のウェブ担当。
現在は、制作会社のデザイン課長。

大学ではスケボーをしながら表千家茶の湯同好会に所属。さらに学芸員の資格を取得するというやりたい事はとりあえずやってみる主義。

高円寺で阿波踊りを踊る事が大きな生き甲斐になっております。