「富士山の壁絵」がある銭湯が好きです。


長年営業してきた所は、尚更好きです。

昨今「スーパー銭湯」という娯楽性を追求した「湯の祭典」のような施設も多々ありますが、齢三十を越えたあたりから、あまり興味がなくなってきました。

銭湯に必要なものは、「湯船と壁絵」。
そのシンプルなバランスの良さが決めてでしょう。

特に最近のお気に入り銭湯は、都内杉並区の「玉の湯」。
ここの佇まいは本当に安定していて毎回行くたびに感心させられます。

もちろん 壁絵は銭湯の代名詞、「冠雪の富士」。
この銭湯の壁に描かれた富士は、それが絵である事を忘れさせるような親しみやすさがあります。

湯船の真ん中に、ぐっ…とそびえ立つ本峰に、うっすらと長くかかる薄雲がさらにその山の高さを感じさせます。
そのふもとに広がる大きな海原は空の青を吸込み、島と帆掛け船が気持ち良い案配でぽつんぽつんと浮いています。

ここでさらに感心するのが、壁画を湯船から見た時に、まるで今、自分が海の上にいるような錯覚を感じるように描かれているという事。


つまり自分が、富士を望む駿河湾の洋上の湯につかっているような...そんな広がりを感じるパースで絵が描かれているという事です。

その稜線をずーっとよこに眺めていくと目に飛びこんでくるのが「ノガミ薬局」とか「武蔵野酒屋」という隅っこに貼られているプラスティックの協賛広告の看板。
「あっ…ここは銭湯であった!!」
と、そこで急に現実に引き戻されますが、それもまた楽しい。


おそらく壁にかかれたような角度で富士を見ながら湯につかれるところはどこを探しても無いとは思うのですが、その画があまりに私の心中にある「富士」の情景と一致していて、不自然さが全くない。

いうなれば、日本の心の有様を写実した「印象派の富士」というべき見事さに心を奪われる。
忍野八海よろしく、「信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産の一部として「玉の湯」も世界文化遺産に登録されるべきであると声を大にして言いたい!

さらに玉の湯の良いところは、長年使われてきた痕跡が顕著にでているところだと思います。
もはや人為を感じられない「ワビサビ」を彷彿とさせるものがちらほらと。

おそらく掃除では落とせないような、温度計の下の白錆の出方。
使い込まれた蛇口の鈍色。
タイルにしみ込んだ薬湯風呂の漢方の匂い。
そして、積み重なった「ケロリン」の桶。

こういったところがどこをとっても、私の銭湯のイメージから一つもずれていない。
一朝一夕で出せる味ではない。

「いい湯だな(ハハハン)」

と、頭にドリフのビバノンロックが自然と流れてきてしまう。
非の打ち所のない「いい銭湯」であります。


ここにはよくウチのかみさんと一緒に行くのでそんな事を話してみると、実は女湯の壁には富士が描かれていないようで、いつも男湯からチラリと見える山頂を拝んでいる様子。

いやぁ…
日本男児に産まれてほんとうによかった!

oasis_sk

『ARTYOURS』のウェブ担当。
現在は、制作会社のデザイン課長。


大学ではスケボーをしながら表千家茶の湯同好会に所属。さらに学芸員の資格を取得するというやりたい事はとりあえずやってみる主義。

年始に遊びにいったカミさんの家で良いムコを演じきってほっとしています。